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IMPACT Interview: 竹中平蔵さん(中編) 『成功する人の共通点とは:夢の原点を言葉にできるか』

2016/07/08 | By IMPACT Japan

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IMPACT Interview: 竹中平蔵さん(中編)
『成功する人の共通点とは:夢の原点を言葉にできるか』

経済政策の専門家、竹中平蔵さんを招いたインタビュー企画の第2回目。大臣職を歴任してきたからこそ語れる、政府におけるアントレプレナー不在の実態や、日本にアントレプレナーが生まれづらい根源的な理由を聞いていく。

<プロフィール>
竹中平蔵(たけなかへいぞう)
1951年生、和歌山県出身。2016年4月より東洋大学教授、慶応大学名誉教授に就任。小泉政権では経済財政政策担当大臣、郵政民営化担当大臣などを1980日にわたり歴任し、国務大臣としての在任期間は戦後の連続最長を記録した。政界引退を表明した後は、産業競争力会議の有識者委員や、国家戦略特別区域諮問会議の有識者議員といった政府系の仕事や、(株)パソナグループの取締役会長、六本木アカデミーヒルズの理事長、オリックス(株)社外取締役といった民間の役職にも精力的に携わり、産業の発展や人材の育成に尽力している。

<インタビュアー>
齋藤ウィリアム浩幸(さいとうウィリアムひろゆき)
1971年生、カリフォルニア出身の日系二世。内閣府本府参与。自身も20代で米マイクロソフト社に事業売却を果たしたアントレプレナーであるが、現在は次世代リーダー育成をテーマに活動しており社団法人IMPACT Foundation Japanを設立、理事長を務める。IMPACT Japan Foundationはカタールフレンド基金による活動の拠点としてINTILAQ東北イノベーションセンターを設計、開設、運営している。

<キャッチ1>
一部の限られた人が権力を牛耳っている
閉ざされた世界の常識を覆すには、夢の原点に立ち返ることが大切

– 齋藤ウィリアム浩幸(以下、ウィリアム)
竹中さんの挑戦は政府という巨大な組織の中で行われました。政府の中でアントレプレナーになるということに、特別の難しさはありましたか。

– 竹中平蔵(以下、竹中)
どこの社会にも、ジャーゴン、つまりその世界の中でしか使えない俗語のようなものがあるかと思いますが、そのジャーゴンがどれだけ難解なものであるかで、その世界の難しさがわかりますよね。
これ、斎藤さんに言ったことあるかな?次の言葉を翻訳してみてください。
「今日、吊るしが降りた、しかし今日はお経だけ、このままでは”しめそう”は2週間後」

– ウィリアム
すみません、さっぱりわかりません(笑)

– 竹中
霞が関の人はこれ、全員わかると思います。
吊るしが降りたというのはどういうことかというと、三権分立の下で、内閣が法案を作るとしましょう。でも法律を決めるのは立法府ですから、立法府に送るわけですよね。しかし法案を送ってもすぐに審議してくれるわけではないのです、これを吊るされていると言う。
お経とは、審議をする時には必ず所管の大臣が趣旨説明をするんです。今回の法案はこういう目的で作られました、何卒審議のほどお願いしますと。これがお経読みです。
しめそうと言うのは、締めくくり総括質疑のことなんです。これをやるということは裁決するということ。裁決するということは、法案が通るということなんです。だってその法案は与党に承認されて出てきているわけですから、裁決されれば通るんです。
だから野党は裁決させないように、時には変なスキャンダルを持ってきて止めようとするでしょ。

– ウィリアム
ジャーゴンというより、私が専門としているセキュリティのコードワードみたいですね!

– 竹中
こんな難解なジャーゴンも、霞が関の人なら全員わかるわけです。しかしそれ以外の人にはまったくわからない。つまりこのジャーゴンこそが、ごく一部の限られた人が政策や法律を決めるプロセスを牛耳っていることの証明でもあると言えるんですよ。
ウィリアムさんもそういうところに外国から入ってきたわけだから、戸惑いますよね。

– ウィリアム
はい(笑)

– 竹中
ただですね、私がそういう世界の中で学んだ一番重要なこととは、常に原点、基礎に立ち返るということなんです。たとえば小泉さんは派閥の了承を得ないで、一本釣りで組閣しましたよね。あの時、政界内では独裁だと批判されました。しかし国民は支持しましたよね。なぜかと言うと小泉さんは憲法通りにやったからなんですね。憲法によれば、内閣総理大臣が他の大臣を指名して、天皇陛下がそれを承認する。逆に小泉総理の方が憲法通りにやっているわけで、今までが憲法通りではなかったわけなんですね。

– ウィリアム
原点に帰る、という方法論は、政府の中だけでなくとも、あらゆる業界のアントレプレナーにも共通する処方箋ですね。

– 竹中
その通りです。ベンチャー三銃士と呼ばれる方々もそうですよね。
ソフトバンクの孫さんはITの力で日本を変えたいと思った。HISの澤田さんは自身が若い頃に海外で味わった感動を日本の若い人たち全員にも体験させたいと思った。パソナの南部さんは働く人が毎日もっともっと楽しく充実できるようにと努力した。一方で、お金を儲けようという目的から出発した人は、彼らの世代ではもうほとんど残っていないそうです。
結局、夢の原点に立ち返るということが、アントレプレナーの一番の出発点なのかと思います。


減税か、補助金か
日本式のバラ撒き財政がアントレプレナーのチャレンジを阻害する

– ウィリアム
先ほど竹中さんは、アントレプレナーにはサムマネーが必要と仰いました。これは確かにその通りと思うのですが、民間ではお金が回りにくい一方で、政府からのいわゆる「バラ撒き」が問題になるということもあります。マネーが足りないのではなく、too much moneyによってチャレンジ精神がスポイルされているという状況も生まれているように感じていますが、アントレプレナーに対しての政府のお金の使い方は適切なのでしょうか。

– 竹中
ウィリアムさんの言う通り、大いに問題があると思いますね。
経済学者は時々、目的関数という言葉を使います。企業は収益を最大化する。これが目的なんです。では政治家や官僚は何を目的としているのか。日本をもっと良くするためにと、綺麗事はいくらでも言えますよ。しかし私には、彼らが自分のinfluence(影響力)を最大化したいと考えているように見えるのです。
経済を良くするために、政治にできることは何でしょうか。
まず1つめの方法は頑張ってお金を稼いでいる人や企業にお金をたくさん使わせること。これが減税です。もう1つの方法は、お金をバラ撒くこと。これが補助金です。
リーマンショックの後、経済を立て直すために日本は何十兆円というお金を使いました。アメリカもGDPの3%を使った。しかしその使い道はまったく違います。日本の99%以上は補助金。アメリカは半分を減税に使ったのです。

– ウィリアム
補助金は困っている人を助ける親切な制度に見えて、その実では助ける人を選別するという不公平な側面もあります。また、もらう側としても、いつ打ち切られるかわからず、継続性がないですよね。

– 竹中
そこが付け目なんですよ。永遠の制度じゃダメなんです。時限制じゃないと。
時限というと一見は公平に見えるけど、その度に政治家や官僚が継続するか廃止するかを判断してinfluenceを行使できるということなんです。彼らにとっては自分で使い道をほとんど決められない減税なんてつまらない。霞が関の人は極めて合理的にinfluenceを最大化して、自分たちの縄張りを守っているんです。


組織にイノベーションを起こすにはどうするか、
無数の目的関数をファンクショナルに変えていくしかない

– ウィリアム
そういった実態を伺うと、政府にも変化の必要がありますね。ああいった巨大な組織が自らアントレプレナーになることは可能なのでしょうか。

– 竹中
日本政府は何かという話にもなりますよね。総理なのか、大臣なのか、国会なのか、官僚なのか。
日本政府というプレイヤーは存在しないですよね。だから組織を変えていくためには、発想を変えてファンクション(機能・職分)の単位で考えるしかありません。使えるリソースを見つけて活用していく。たとえば総理が熱心な案件では総理に行動を促す、あるいは、党に支援してもらって発言力を高める。ファンクショナルに変えていくしかないですね。
組織とは無数の異なる目的関数を持った人間の集まりである、という認識を持つことが大事です。

– ウィリアム
結局のところ、組織に非連続な変化をもたらすためには、中にいる人1人1人がアントレプレナーであることを自覚しなければならないわけですね。そういった意味では、アントレプレナーは必ずしも企業を立ち上げる人であるとは限りません。既存の組織の中にも、組織を変革しようとするアントレプレナーはいるはずですし、いないといけない。アントレプレナーの語源をもともとのフランス語に遡ると、チェンジメイカー、実行する人の意味ですからね。
ところが、仮に政府のような組織の中に解決すべき問題があっても、それを取り組むべき問題と認識させるための情報が、日本にはあまりにも少ないかもしれません。

– 竹中
そう、こうした根源的な問題を周知するリテラシーがメディアにないというのがこの国の最大の弱点です。
最近の例、ものすごく簡単なリテラシーがメディアにないということの証明ですが、新国立競技場の建設費にいくら使うかという問題で、1,000億なら安い、3,000億なら高いと、目の前の金額だけを取り上げている。こんな無茶苦茶な議論はないですよね。
投資家ならどう考えるか。回収年数が長いか短いかです。
たとえば1,000億円で作って、それで入ってくる年間収入が10億とします。投資回収に100年かかりますよね。じゃあ3,000億で作って年間300億が入ってきたら、投資回収は10年ですよね。
今回、メディアの論調に押されたのか、ケチって屋根を作らなかったでしょう。あれ、投資家目線で言わせたら、絶対に屋根を作った方が良いんですよね。コンサートができるから、収入が全然違ってくるわけです。こんなのお金をいかに使うかを考えたら当たり前の話。ところが、ワイドショーなら仕方ないにしても、新聞の社説だって北京に比べて高いか安いか、ばかり議論している。一時的には高くついても、収益が上がれば国民の負担は小さくなりますのにね。

– ウィリアム
何が大切で何がそうではないのか、ビッグorスモールの議論ができていないですよね。こういう浅い議論の声ばかり大きいという例は、確かにそこらじゅうにあふれていますよね。非常に残念です。
いや、だからこそ、日本は大きく変革するチャンスがまだ多く残っていると発想を転換するべきなのかもしれませんね。

(竹中平蔵さんインタビュー第3回へ続く… 近日公開)

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