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IMPACT Interview: 竹中平蔵さん(後編) 『総理大臣にもできないことがある、アントレプレナーがなぜ必要か』

2016/07/19 | By IMPACT Japan

takenaka
インタビュー第3回:竹中平蔵さん(後編)
『総理大臣にもできないことがある、アントレプレナーがなぜ必要か』


経済政策の専門家、竹中平蔵さんを招いたインタビュー企画の第3回目。アントレプレナーに必要な資質とは何か。そして、なぜ世界は、アントレプレナーを渇望するのか。新しい時代を牽引していくリーダー像の実態に迫る。

プロフィール]
竹中平蔵(たけなかへいぞう)
1951年生、和歌山県出身。2016年4月より東洋大学教授、慶応大学名誉教授に就任。小泉政権では経済財政政策担当大臣、郵政民営化担当大臣などを1980日にわたり歴任し、国務大臣としての在任期間は戦後の連続最長を記録した。政界引退を表明した後は、産業競争力会議の有識者委員や、国家戦略特別区域諮問会議の有識者議員といった政府系の仕事や、(株)パソナグループの取締役会長、六本木アカデミーヒルズの理事長、オリックス(株)社外取締役といった民間の役職にも精力的に携わり、産業の発展や人材の育成に尽力している。

[インタビュアー]
齋藤ウィリアム浩幸(さいとうウィリアムひろゆき)
1971年生、カリフォルニア出身の日系二世。内閣府本府参与。自身も20代で米マイクロソフト社に事業売却を果たしたアントレプレナーであるが、現在は次世代リーダー育成をテーマに活動しており社団法人IMPACT Foundation Japanを設立、理事長を務める。IMPACT Japan Foundationはカタールフレンド基金による活動の拠点としてINTILAQ東北イノベーションセンターを設計、開設、運営している。


日本全体が中年症候群、
痛みを乗り越え改革に導くリーダーが渇望されている

– 齋藤ウィリアム浩幸(以下、ウィリアム)
アントレプレナーの育成は、日本だけでなく世界中のあらゆる組織で求められる重要課題です。
しかし日本はアントレプレナーが生まれやすい制度を生み出すことに苦戦しています。そればかりか失敗を恐れることのプロを大量生産してしまっている。どうしたら良いでしょうか。

– 竹中平蔵(以下、竹中)
新潟の原発で、事故が起きた時を想定して避難訓練をしようとしたそうです。すると、そんなことをしたら地域の人が不安になる、そんなことをしたらダメだと反対する人がいた。結局、訓練は中止になってしまったのですが、それで目先の安心は確保したけれど、長期的に考えて本当にそれが安心ということなのか。こうした話をダボス会議(世界経済フォーラムの年次総会)でソニーの井出さんが紹介して、日本全体がミドルエイジシンドローム、中年症候群だと指摘したんですね。
私は中年から老年に差し掛かってますけども、やっぱりある程度経験を積むと、新しいことをやるというのが億劫になるんですね。変化が億劫になる。変化してないことが自分でもわかっているから、余計に億劫になる。

– ウィリアム
不安だから変化できないし、変化してないから不安だ、そういう負のスパイラルに日本全体が陥ってしまっていますね。

– 竹中
そういう閉塞した状況を突破するためには、やっぱり痛みを乗り越えて改革しなければならない、と言うリーダーが現れて、みんなをそうだと納得させなきゃいけないわけですよね。ところが、ここで日本人特有の「間」を大事にする精神性が邪魔をしているということはあるかもしれませんね。


「間」を大切にする文化が、大きな変化を拒む要因になってしまっている

– ウィリアム
日本人が気を使いすぎるという話は、以前に竹中さんにも相談させていただきました。組織の中では誰もが一枚岩のような話しぶりをして、なかなか物事が前に進まないもどかしさを、外国人であれば一度ならず感じたことがあるかと思います。

– 竹中
人を表す言葉は、英語だとhuman beings。でも、日本と韓国だけは、人間、というように「間」という文字が入っているんです。これを濱口恵俊さんという社会学者は間人主義、human betweenismと定義しました。
アメリカとか普通の国では、人が何かをする時には自分の満足を最大化します。ところが、日本ではどんな行動においても、間柄を保つ、間柄を最大化するということを優先するんです。
だから日本語には「間」という言葉がものすごく多いんです。間が違うと「間違う」、抜けると「間が抜ける」、他にも、間が悪い、間が持たない。全部「間」なんですよ。
ある意味では、これは日本の美徳ではあるわけです。ところが、この特性が変化を拒む要因になっていることは間違いありません。だから日本人はアントレプレナーになれないということではなくて、そういう特殊な問題があることも認識して、私たちは社会のあり方、企業のあり方を変えていかないといけないですよね。

– ウィリアム
では、間を大切にしすぎる日本人の中で集団を導くリーダー、すなわちリーダーになるために必要なこととは何でしょうか。

– 竹中
私が若い人を励ます時によく使うのは、パッションと、戦略は細部に宿るという言葉ですね。
パッションとは、溢れる情熱です。たとえば先ほど紹介したベンチャー三銃士のように、夢の原点が明確であり、そこにかける情熱が社員に浸透しているかどうか。この提案なら社長は絶対に応援してくれる。あるいは、こんな小手先のアイディアなら社長を怒らせてしまう。そういう風に組織の中に社長のパッションが伝播した組織であれば、みんな懸命についていこうと実力以上のものを発揮してくれるんです。だから、パッションはものすごく重要。
しかし一方で、戦略は細部に宿る、という冷静さも併せ持っていないといけない。どんな事業にも、ここを外したら絶対ダメ、ここさえしっかりやっておけば後はうまくいく。そういった意思決定上の重要なポイントがありますよね。
情熱と冷静さ、両方を使い分けるというのが、政府のような大きな組織の中でイノベーションを発想する時のポイントだと思います。


バルコニーに駆け上がれ
そして、成功者を讃えよう

– 竹中
総合して言えるのは、アントレプレナーは自分でリスク管理をしないといけないということ。
新しいことをやろうとすると、必ず敵がいて、抵抗勢力もあります。成功しかけたタイミングで狙い撃ちにされることだってある。組織の中や社会の中に、異質なもの、非連続なものを持ち込んで行くには、やっぱり人間としてのトータルな力が必要なんです。

– ウィリアム
新しいことをしようとすると、ものすごく批判される社会ですね。

– 竹中
お互いにね(笑)
ハイフェッツというリーダーシップの専門家がハーバードのケネディスクールにいるんだけども、彼がよく使っている言葉は「バルコニーに駆け上がれ」というもの。目の前のことにはもちろん一所懸命でなければならない。でも、時々はバルコニーに上がって自分の姿をバーズビュー、俯瞰で見ることも大切なんです。そうするとリスクがよく見える。大事だと思っていたことがさほど大事ではなかったと気づくかもしれない。軽く見ていた問題が実は大切だったと気づくかもしれない。バルコニーからの視点がみんなと違う視点を持つということだというわけなんです。

– ウィリアム
本日の竹中さんのお話からはまさに、新しい視点、自分にはなかった発想を気づかされた読者の方も多いと確信しています。それでは最後に、アントレプレナーを目指す、あるいはアントレプレナーを育成しようと努力をする読者のみなさんに、応援のメッセージをお願いします。

– 竹中
これだけ話したけど、じゃあ私が何をしてきたかというと大したことはしてないんですけどね(笑)
総理大臣という一国の最高権力者の方の側に5年5か月勤めてきて思ったのはですね、たとえ総理になってもできることとできないことがある、ということ。自分自身も、大臣として所管の中で全力を尽くしてきたつもりですが、やはりできたこととできなかったことがあります。
結局、たった1人にできることは限られているわけです。だからこそ、1人1人が半径10メートルの自分の世界の中でできることをやっていく。アントレプレナーシップを持って挑戦していく。そんな志が1人でも増えれば、その分だけ必ず、世界は良くなっていく。そういうことなんだと思います。
だから、成功者を讃えるという世の中にしないといけない。成功した人を罰するのでなく、失敗した人を責めるのでもなくね。成功した人も、どうだ俺みたいになってみろ、と言えば良いんです。今の日本だと袋叩きになりそうですけどね、成功した人が堂々とそう言える世の中になれば良いですね。

– ウィリアム
変えないと、変わらないとダメですね。私自身も、一層努力してまいりたいと思います。
本日はお忙しい中、ありがとうございました。

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